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2026/7/7【語りのアーカイブ】應典院の魅力を語るシリーズ⑤金哲義さんインタビュー(後編)

應典院のWEBサイトは現在、事業やイベントの告知のみならず、過去事業の開催報告などのアーカイブ、「あそびの精舎」としての活動や理念を仏教の教えと共に伝えていくことを主な目的としています。情報の提供だけでなく、読み物としても充実したサイトになっていくことを目指して、應典院に縁のある方々から、これまでの関わりや、應典院という場の魅力や可能性について語っていただくインタビュー記事の連載を行っています。

第5弾は、應典院の舞台芸術祭「Space×Drama[i](以下、スペドラ)」で多くの名作を上演され、現在は日韓でご活躍されている演出家・劇作家・俳優の金哲義(キム・チョリ)さんにお話を伺いました。後編では、こどもたちへの眼差しや未来への展望についてお話いただきます。

(インタビュアー/中嶋悠紀子)


▲前編の記事はコチラ


金哲義 (キム・チョリ)

 

1971年 大阪生まれ。
1993年劇団メイ(2002年にMayに改称)結成。座長・作・演出を務め、自身のルーツを題材に人間の立ち位置を問う作品を作り続けている。
新宿タイニイアリス主催アリスフェスティバルにて「風の市」(2007年度)、「夜にだって月はあるから」(2009年度)、「零度の掌」(2015年度)でAlice賞を3度受賞。
若手演出家コンクール2010にて「晴天長短」で最優秀賞及び観客賞を受賞。
應典院舞台芸術祭space×drama2011にて「夜にだって月はあるから」を上演し優秀劇団に選出される。2010年以後は韓国や東京の劇団が作品を上演する機会も増えている。
2020年 ”関西演劇祭2020”にて「タンデム・ボーダー・バード」を上演。MVO(最優秀賞)/脚本賞/最優秀演出賞/を受賞。2022年 劇団Mayを解散。
2018年の済州島4.3平和人権マダン劇祭参加をきっかけに近年まで韓国で仁川バイリンガル演劇祭やマルモイ祝祭、光州国際演劇祭、ミックスジャムinソウルなどで公演。
韓国の劇団 プレチョンチャや大学などで「タンデム・ボーダー・バード(韓国タイトル「猪飼野バイク)」「チャンソ」「晴天長短」「7(日本未発表)」などが上演され続けている


日常に溢れる演劇的な想像力

ー表現者として、またアフタースクール「vivid!」での活動を通じて、多くのこどもたちと接しておられます。創作の場でもこどもを主軸に置くことが多い金さんの目に、現代のこどもたちの姿はどう映っていますか?

僕、チャップリンの「キッド」という映画がとても好きなんです。昔から少年が活躍する作品が大好きで、「ドラゴンボール」のようなアニメも良く見て育ちました。その影響もあるのですが、やはり一番意識が変わったのは甥っ子が生まれたことです。日々成長する姿を目の当たりにして、その一日一日がとても貴重で愛しく思えた時に、「自分が主人公の人生は一旦おしまい。次は自分たちの持っているものを未来に託していこう。」という気持ちが自然と湧いて来ました。そこからは劇づくりも「繋いでいく」という意識に変化しましたね。

時代が変わっても、こどもたちの本質は変わっていないと僕は思います。世間ではスマホばっかり見ていると言われていますが、例えば「vivid!」のこどもたちなんかは野生児のように毎日元気に暴れまわっていますし、ドッジボールで「ドラゴンボール」の技を繰り出しながら投げた時も、こどもたちの頭の中では飛んでくるボールのイメージが明確に出来ている。演劇的な想像力は日常の中に溢れかえっています。

でもだからこそ、悩むこともあります。大人たちはおてんばなハイジを好意的に応援しながらも、目の前で騒ぐこどもたちには「静かにしなさい」と、教育の対象として抑え込もうとしますよね。理解はできます。でも一方で、その子が持つセンスやエネルギーを認めて、もっと面白がりたいと思う自分もいます。いつもその間で揺れて、今日はこれで良かったかな?と帰り道に反省することも多いですね。特にコロナの時は近付けないことや、マスクをしている制約で、こどもたちが見せる一瞬の表情を見落としてしまったかもしれない。SOSに気づけなかったかもしれないと、後悔の気持ちがあります。

ー今後、こどもたちと演劇を通じてどんなことができると思いますか?

普段は「vivid!」の探究TIMEでこどもたちと演劇をやらせていただくこともありますが、今年は5月から10月にかけて、應典院で開催される「感じてつくる!こども演劇ラボ[i]」も担当します。ここでは「俳優を育てる」ことを主目的とするのではなく、むしろ、「演劇の技術は生活の中で必要だよ」と伝えていきたいです。人前で話す姿勢、自分の内面にある可能性に気づく力、そして他者と関わるコミュニケーション能力。それらはすべて、社会を生きていくための「生きる力」そのものだと思っています。元々備わっている自分たちの可能性に気付けるようにアシストするのが自分たちの役割だと思っていますし、その結果、演劇を好きになって作る人が生まれたり、俳優になる人が出てきたらとても嬉しいですね。

文化という「漢方薬」を未来へ届ける

ー應典院の場の持つ可能性や、これからの應典院に期待されることがありましたら教えてください。

東日本大震災が起きた2011年、当時僕は在日として、近くて遠い故郷のことを物語で描こうとしていましたが、まさか日本の人たちが故郷を失う日が来るなんて思ってもみませんでした。僕たちみたいな辛い思いをして欲しくない。それはとても強く思いました。

戦争や災害が起きた時、まず一番に必要とされなくなるのは文化です。ですが演劇を含む、文化や芸術って漢方薬みたいなものだと思うんです。即効性はなくても後からじわじわ効いてくる。どん底になった時に、あの時のあの作品の、あの言葉があるから「もう一度頑張ろう!」と力が湧き出てくることがあると思います。10年後、20年後に「あの時、應典院であんな出会いがあったから、今の自分がある」と言えるような人が一人でも増えること。そんな、目に見えない豊かさを育む場としての未来を信じています。

インタビューを終えて

金さんは日々のこどもたちとの触れ合いの中で、教育的な倫理観や道徳観に縛られず、心の底からの喜びや、感情の機微を見逃すまいと日々細やかに「反応」されています。演劇は演者間の反応の積み重ねで観客(場)に開かれていくものですが、相手が本当に欲しているものや意識せずに望んでいるものに気づき、声を掛けることができるのは、こどもたちへの大切な「ケア」の部分を担っているとも言えます。

今の時代は即効性のあるものばかりが求められますが、金さんが「漢方薬」と例えられたように、演劇には直接誰かの命を救うような即効性や、分かりやすい効果はありません。しかし「スぺドラ」がもたらした効果が後から感じられたように、金さんのこどもたちへの日々の反応と応答の積み重ねもまた、時間をかけて効果をもたらしていくはずです。それは華やかさとはかけ離れた、目立たないものかもしれません。しかし、だからこそその小さな変化に眼差しを向け、信じ、待ち続けることのできる應典院でありたいと、金さんの姿勢に改めて強く感応させられました。


[i] 應典院舞台芸術祭「Space×Drama」:通称「スぺドラ」。應典院の本堂を舞台に、1997年から2018年まで開催されていた演劇祭。関西の若手劇団の登竜門的存在として愛され、長きに渡り本堂が演劇公演で賑わった。毎年参加劇団の中から優秀劇団が選ばれ、翌年に應典院と應典院寺町倶楽部(市民団体)との三者協働プロデュース公演を行う権利を得た。これをきっかけに多くの若手劇団が関西を代表する劇団へと成長していった。(https://www.outenin.com/project/space-drama/

 


2026年5月より、「感じてつくる!こども演劇ラボ」を開催しています!

相手を見て、感じて、応える。「いま、この瞬間」を大切にしながら、子どもたち自身の発想と関係性からドラマを生み出していく体験型ワークショップを開催しています。全12回。
ファシリテーターは金哲義、中嶋悠紀子、齋藤佳津子。