戒田竜治:Forum Enters The Theater=演じるフォーラムについて。
本年2018年、3月に試演となる#0『ヤミウルワシ』を、8/31〜9/2に#1『供犠』を開催。そして12/17~19に#2『カーニバル』を開催予定の應典院寺町倶楽部の新事業 FETT(Forum Enters The Theater=演じるフォーラム)。演劇作品の上演に“知恵”を招き入れ、【演劇】【即興劇(ロールプレイ)】【トークセッション】の3部構成からなる、野心的な取り組みです。FETTを企画した應典院寺町倶楽部 事務局長の戒田竜治が、その意図と目指すものについて書きました。
應典院という場に、足を運ぶ人
應典院寺町倶楽部が拠点とする、浄土宗應典院という【場】を訪れる人の大半は演劇公演の観客です。演劇人が多数出入りしているように見えるかもしれませんが、実際は観客の方が圧倒的に多い。当たり前の話で、舞台上の俳優より客席のお客さんの方が多い訳ですから、必然的にそうなります。
では、この『演劇の観客』というのが、なんらかの属性になるかというと、ならないと思っています。みなさん、それぞれの趣味趣向を持っておられて、ひとくくりにするのはちょっと無謀なことなんじゃないかと思っています。
一方で、浄土宗應典院には演劇以外にも多様な問題意識をお持ちの方々が活動の場として足を運んでいます。そもそも、“お寺のお坊さん”である應典院の住職や主幹も演劇が専門という訳がなく、仏教という専門分野をお持ちです。そして、多様な問題意識・専門分野の方々が行き交う【場】には様々な出会いと生きる上での「ヒント」があります。
生きる上での「ヒント」というと大げさに聞こえるかもしれませんが、それはだいたいちょっとしたことであったりします。「これまでの人生を投げ捨てて新しい生き方に目覚めました!」みたいなことにはなりません。ほとんど大抵は。
それを應典院では「気づき」なんて言葉で表していますが、應典院(や住職など)自身が「人はこうすべき」「人はこう生きるべき」みたいなことを言ってる訳でも、言ってくれる訳でもありません。むしろ不親切なくらい言ってません。ただ、たくさんの分野のたくさんの方々が集まり、出会い、通り過ぎ、戻ってくる應典院は「気づき」の宝庫でもあります。
「知らない」と出会う、『気づき』
前置きが長くなりましたが、そんな他者と出会える應典院で、割と『演劇のお客さん』が、なににも出会わずに【場】をあとにされているのに気がついたのは数年前でした。(演劇作品には出会ってます)
「演劇好き」というのはなにかの属性ではない、と考えていますので「演劇好きの人は●●に興味がない」とかちっとも思いません。もちろん「演劇好きの人は、必ず●●に興味がある」とも思いません。要するに、人それぞれです。
(●●は「仏教」でも「グリーフ」でも「終活」でも「母娘問題」でもなんでもいいです)
ならば出会いの機会をつくる、越境させることが出来るのが、「呼吸するお寺」浄土宗應典院という【場】なのではないかと思って企画したのが、今年の1月にコモンズフェスタで開催しました『グリーフタイム×演劇×仏教』であり、3月のFETTの試演#0『ヤミウルワシ』、そして9月のFETT#1『供犠』でした。
なにせ「気づき」ですから、そんなに難しいことは要りません。世の中、大抵のことは「知らない」ってことが問題で、「気づき」を得たなら深める場はいくらでもあります。FETT#1『供犠』では臨床心理士さんをお招きしましたが、臨床心理を専門にしたセミナーとか探せばいくらでもあります。
演劇を観に来たついでに臨床心理の世界、臨床心理の知見、生の臨床心理士さんにちょっと触れて帰っていただく。それが、9月に開催しましたFETT #1『供犠』のネライでした。
越境する
ここで、演劇と臨床心理はあくまでも対等です。『供犠』は、臨床心理の世界を説明するための演劇作品ではありません。脚本・演出を担当していただいた竜崎だいちさん(羊とドラコ主宰 / 應典院寺町倶楽部会員)の創作意欲に基づいた作品です。
お芝居はお芝居として楽しめないとつまんないですよね。どちらが主でもどちらが従でもないと思っています。むしろ、どちらも主であると思っています。
その2つを接続する、越境するために、臨床心理士さんにカウンセリングのロールプレイを俳優演じる登場人物を相手にやっていただきました。臨床心理士さんも実際に、普段、勉強のためにロールプレイはされているそうですよ。
ロールプレイを演劇用語的に噛み砕きましてエチュード(即興劇)と表記しておりますが、それを実演していただきました。
まさに俳優と臨床心理士の『現場』と『現場』を接続し、他者としてきっちり出会った上で、上演作品をお題にトークセッションを行いました。
(ちなみにこの構想は、『グリーフタイム×演劇×仏教』で應典院の秋田住職が月参りのロールプレイを実演されたのが、とても「気づき」が多く興味深かったことで生まれました)
なんか演劇の偉い人から演劇的な切り口を聞くアフタートークじゃなくて(それはそれで楽しいんですが)、まったく異ジャンルな切り口から作品を紐解いていく。一緒に観た作品をお客さんもゲストの臨床心理士さんも共有しながら、共有体験をもとに紐解いていく。
実はまっすぐ「臨床心理講座」とかに参加するより多くの『気づき』を生むんじゃないかと思っています。観劇という生の体験を共有しながらお互いを紐解いていくわけですから。
お芝居はお芝居で楽しく、トークはトークで楽しく、どちらも肩に力入れずに楽しめるようにと企画したのがFETT(Forum Enters The Theater=演じるフォーラム)です。「気づき」って楽しいものだと思うんです。
まだまだ始まったばかりのプロジェクトで試行錯誤が続くこととは思いますが、たくさんの小さな出会いと気づきの場となって行くことを期待しています。エンターテイメントやアートだけに特化せず、アカデミックだけに偏らず、浄土宗應典院という【場】を行き交うそれらすべての接点や越境となっていくことを願っております。
應典院寺町倶楽部
事務局長 戒田竜治
次回FETTは12/17(月)~19(水)に開催
Forum Enters The Theater #2『カーニバル』
丹下真寿美ひとり芝居『カーニバル』に“應典院・現場の知恵”を招き入れます。大阪冬の陣の1614年に創建された浄土宗應典院は、1997年の再建以来、一般的な仏事ではなく、かつてお寺が持っていた地域の教育文化の振興に特化した寺院として、様々な分野の有識者を招き入れ〈気づき、学び、遊び〉を提供してきた。しかし、再建から20年を経て、招き入れてきた“知恵”は應典院の「現場」に集積され、今や應典院自体もまた〈気づき、学び、遊び〉の対象になったと感じている。その存在自体が社会的・仏教界的に特異な應典院であるが、今回はさらにその“現場の知恵”に光をあて、舞台に招き入れる。これまで他者に光をあててきた側が、逆に光をあてられたときに浮き上がる“知恵”が楽しみです。(戒田)
開催日
2018年 12/17(月)~19(水)
12月17日(月) 20:00
12月18日(火) 20:00
12月19日(水) 19:30
※受付開始・開場は開演の30分前
※各回限定20席
会場
浄土宗應典院 2F 気づきの広場
詳細・ご予約
https://www.outenin.com/article/article-12229/