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2018/11/3-11/5 西田悠哉:冗談だからね。『冗談だからね。の本当にマジでごめんな祭』レビュー

去る11月3日から5日に、冗談だからね。『冗談だからね。の本当にマジでごめんな祭』(應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2018)が開催されました。予定していた2作品の上演から、演目を変更しての開催となりました。今回は、劇作家・演出家・俳優の西田悠哉さんにレビューを執筆していただきました。


 

本公演の前提として、本来の上演する演目であった『青春の延長戦』『病気だからね。』を中止し、『公開稽古〜こんなんになるはずでした〜』『バーベキュー演劇』『誰も知らない。+援助交際』の3本に演目が変更となったという背景がある。

演目変更の理由について、劇団側からは「劇団側の不手際(台本の遅れや、ほとんど全部の製作上の進行)」という説明があった。本来上演予定であった演目は製作上の問題をクリアして「再上演」することとし、公演中止の可能性も考えたものの、「何か」をお見せするのが最低限の「義理」として「私たち以外の傷だらけの時間になるかもしれないという覚悟はした上で」「誰かの幸せな時間になることを祈って」「世界とこの世も含めてもう笑わざるを得ない時間(絶対に他では見れない)」を見せるために上記の3演目へと内容を変更した。
以上が大まかではあるが劇団から発表された演目変更への経緯である。

今回は『誰も知らない。+援助交際』のみを観劇。前提となる演目変更に至った詳細については知る由もなく、外野がそこについてああだこうだ口を突っ込むのも野暮なので、内情についての言及は控え、作品を見た限りのレビューにとどめる。(とはいえ作品の性質としてこの前提については無視できない事象であることは間違いないのだが…)

見てない方々のためにも、まず公演の内容について簡単に触れておきたい。ちなみに本作は2017年末から2018年始めにかけて「図らずも、3大都市ツアー」と銘打って大阪・名古屋・東京で上演した作品の再演である。

舞台は奥側にスクリーン、上手下手に平台が積まれているという極めてシンプルなものである。開場中からスクリーンには演目変更についての声明文が流れており、万が一事前に状況を知らずとも観客全員に演目変更の経緯とそこについての劇団側の思いは共有される。
開演と同時に劇団員の3人が登場し、手紙を読み上げる形で謝罪の意を表明する。(劇団員の三人と書いたが作・演出である安保泰我氏は別人であり、正確には劇団員二人と代役一人である。)
そこから出演者が登場し、演目変更を受けてのすったもんだが繰り広げられる。受け入れて続投する者と怒って降板する者に分かれ、降板者は劇場を後にする。残った人々は代役として充てがわれ、本役の役者の名前が書かれたゼッケンを着けて『誰も知らない。』の上演が始まる。
冒頭脚本家を名乗る男による「20分後に死ぬ」という宣言から始まり、ある男が誕生し、母親が死に、初恋をし、14歳で童貞を喪失し、捨てられた童貞が喋り出し、続きを書けない脚本家が登場し…といった脈絡のない“面白くない”(あえてです)話が展開される。
すると突如、客席から女性が乱入し、ここまでの劇を「つまんねえ」と一蹴する(文字通り役者は蹴られ、殴られる。脚本家役の人はドツかれて死ぬ。)劇の進行が中断した中、「安保くん」(代役)が登場すると、乱入した女性が「安保くん」に対し一通り罵った後、「冗談にしてあげる」と言うと、ゲスの極み乙女。『猟奇的なキスを私にして』が流れ、スクリーンに安保氏の「つまらなかったらビンタしてくれ」といった旨のツイート画面が投影される。「安保くん」(代役)は次々と役者たちからビンタを食らい、「FREE BINTA」タイムに突入し、最後に土下座する。すると突然「安保くん」(本人)からのビデオメッセージが流れ、彼は体調が悪いため会場に来ることができず、今まで出ていた「安保くん」は代役であることが判明する。(なんと!)最後は全員登場し「冗談だからね。でした!」とにゃんこスターのオマージュで終了。(なんと!なんと!)

以上、『誰も知らない。』の演目が終わると、突如小道具の抽選会が始まる。
役者が一人ずつ番号の書かれたをくじを引き、事前に客席に貼ってあった番号と合致すると、各々小道具を観客にプレゼントするというものである。「生麦生米生卵」「巨大なモノ消しゴム」「ミラーボール」「段ボール」といった『誰も知らない。』劇中で使われた小道具から、「先輩にもらったお守り」や「安保くんの家の鍵」と言った私物に至るまで、尋常じゃないテンションと怒涛の勢いで観客に配布されていく。

そんな中、冒頭で降板した役者達がなんやかんや(なんやかんやはなんやかんやです)あって劇場へ戻ってくる。そして客席にいた女性が本物の「安保くん」を家から連れてくると言い、先ほど配った「安保くんの家の鍵」を回収して会場を出る。戻ってきた役者達によって本役による『誰も知らない。』=『援助交際』が始まる。(厳密には小道具抽選会の時点で『援助交際』は始まっていたと考えられる。)内容は先ほど上演したものと完全に同じだが、劇中で使うべき小道具を観客に渡してしまっているため、それに伴うトラブルがギャップとして効いてくる。そして終盤の「安保くん」へのビンタのシーンとなるが、結局本人は到着が間に合わず、またも代役がビンタされる事となる。最後に全員が登場してにゃんこスターオマージュの場面に差し掛かった所でようやくご本人登場。
爆音で『猟奇的なキスを私にして』が流れる中、全員が「安保くん」(本人)にビンタをし「FREE BINTA」タイムを経て終演。
端折った点も多々あるが、以上が『誰も知らない。+援助交際』の概要である。

では、本来の演目を変更してまで本作品を上演する意義はどこにあったのだろうか。もう少し掘り下げて考えてみたい。
まず極端ではあるが、観客に「この演目変更は計画通り」と思わせることができたらしめたものである。
作品の性質上、演目変更を前提とした内容となっており、実際SNS等での感想を見るにつけ、計画通りであったと考えている声も少なくなかった。
しかし、これを計画通りと思わせるには稽古不足の感は否めない。演目変更の発表から1週間足らずで本番という事情もあり、役者達はセリフを覚えるのにも一苦労であろう。しかし劇中で、役者がセリフを飛ばし、舞台上で謝り、それに言及するような「ネタ」があったが、そのシーンの以前にも明らかに「ガチ」のセリフミスは散見され、それを「ネタ」として扱うには、面白さより痛ましさの方が強く感じられてしまった。

上記の件にも見られるように、本作品の特徴はメタフィクションとして「ガチ」(=ノンフィクション)をベースに「ネタ」(=フィクション)を挿入することで、虚実を織り混ぜて、その境界を曖昧にしてしまう点にある。過去に大阪や名古屋というアウェイの環境で上演しており、観客が演者のことを“誰も知らない”状況を想定して作られている事からも、作り手が「ガチ」の文脈を強く意識していることは明白であり、逆に言えばその「ガチ」の文脈がありきで成立する作品であるとも言える。今回の再演にあたって、そこに「演目変更」という「ガチ」部分でのファクターを(半ば無理やり)新たに加えたわけだが、元々それを想定していた作品ではないため、「ガチ」と「ネタ」の間で宙吊りになってしまい、「冗談になってない」結果に終わる部分が多々見られた。

タイトルとして銘打たれた『ごめんな祭』からも読み取れるように、今回の公演は彼らの謝意を前面に押し出した公演であると同時に、もはやこうなった以上この文脈すら利用して面白くしてやろうという意図もあったのであろう。

謝意や誠意は十分に伝わったし、その意図もわからなくはないのだが、稽古が間に合ってない事も相まって、観客に謝りたいのか楽しませたいのか、根本のスタンスが曖昧な故に観客に対してもその誘導がうまく機能しておらず、結果として笑っていいのか怒ればいいのか観客としてもスタンスを定めかねてしまう格好となっていたように思われる。むしろそのどっちつかずのスタンスは、自ら予防線を張って謝罪を茶化す事で自己保身に走ったと邪推されかねないリスクも孕んでいる。

つまり本来「ガチ」を背景に「ネタ」を重ねるべき構造が、「ネタ」の中に「ガチ」要素がアンコントローラブルな形で入り込んできてしまう形となってしまい、強烈なノイズとして感じられてしまった。「ガチ」と「ネタ」の境界を演者が自らの力で意識的に線引きできない場合、観客はどこに軸足を置いて何を見たらいいのか混乱してしまう。例えるならば、同様に「ネタ」と「ガチ」を楽しむ競技であるプロレスにおいて、レスラーが演出ではなく事故で実際に致命傷を負ってしまった場合、観客としてはもはやショーとして楽しめなくなってしまったような心境である。

個人的な話をすると、前途有望な彼らの謝罪する姿を見に劇場に足を運んだわけではない。そもそも彼らの劇を初めて見る外野の立場からするとこの一件に関して大して怒りすら感じていないと言ってもいい。(別に犯罪を犯したわけでもないし…)
上演中止ではなく演目変更という形で、劇場で見世物として上演することを選択した以上、今回の一件を踏まえた上で、フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』よろしく製作の裏側も込みでどこまでエンターテイメントとして昇華するのかを純粋に期待していたが、そのような立場からすると、出演者がミスを連発し、主宰者が土下座をしてビンタを振るわれる光景は、到底笑えるものではなく、そこには痛ましさしか残らない。面白くなりそうな所はたくさんあったが、随所に現れる謝意や誠意が裏目に出てしまった格好である。一連の流れを受けて自らを笑いものにしてほしいのであれば、いっそ道化としてもっと徹底的にフザけ倒してほしかったというのが個人的には正直な所である。

しかし、その痛ましさこそが彼らが今見せることのできる現時点での精一杯であったのかもしれない。むしろそのどうしようもないありのまま姿を見せる事こそが、彼らなりの“落とし前”であり覚悟でもあるのかもしれない。ここまで苦言を呈するような物言いをしてしまったが、短い時間の中で何とか新たに作品を生み出そうという執念が感じられたことは間違いない。そういう意味では荒削りではあるもの「今」「ここで」「彼らにしかできない」まさしく「生」の作品であり、他では見る事のできない貴重な瞬間を目撃したとも言える。残酷なまでに剥き出しの姿で衆目に晒される俳優の姿は、もはやドキュメンタリー作品を見ているかのようであり、そこには演技を超えた人間が、「いのち」が、確かにあったのである。
(ちなみにSDN2018のテーマは「いのちに気づく」である。何と!)

 

最後に。

劇団が真に謝意を向けるべきは観客ではなく、リスクを背負って一緒に公演に参加してくれた客演陣やスタッフ陣であろう。プレイヤーからもオーディエンスからも信頼を失いかねない選択をするにあたり、それぞれ並々ならぬ葛藤があったはずだ。それにも関わらず「演目変更」という形で上演に漕ぎつけたのは、彼らの献身抜きにはあり得ない。
そして、誰が降板しても全くおかしくない状況の中であれだけの人間がついてきたという事実は「冗談だからね。」という劇団の魅力を逆説的に証明しているように思われる。
何はともあれ、観客としても劇団としても公演参加者にとっても、この公演の本当の価値や位置付けが定まるのは、延期した2作品を責任を持って完成させ、無事上演に至った時であろう。
そこには“演劇的嘘”や“お約束”を逆手に取って「ガチ」と「ネタ」で無邪気に遊びつくし、世知辛い現実もしたたかに「冗談」にしてしまう彼らの姿がある事を願う。
(レビューを書くにあたって1週間くらい「冗談だからね。」について考えていたので、ファンのような気持ちになってしまいました。延期した2作品楽しみにしています。)

 

  • プロフィール

西田悠哉

劇作家・演出家・俳優。
1993年生まれ。
大阪大学文学部人文学科演劇学専修卒業。
大学の演劇サークル「劇団ちゃうかちゃわん」に入団し演劇活動を始める。
在学中の2015年に「劇団不労社」を旗揚げ、主に脚本・演出を務める。
その他、東洋企画・うんなま・劇団冷凍うさぎ等の公演に客演として参加するなど、俳優としても活動。

 

  • 活動予定

劇団不労社 第五回公演
應典院舞台芸術祭SDN2018参加
『忘れちまった生きものが、』

作/演出 西田悠哉


お前の扁桃体を刺激する!

気狂い部落に炸裂する恐怖と笑いの暗黒喜劇!

“現代口語演劇meets Z級ホラーコメディ”


都心から電車に揺られバスを乗り継ぎ数時間。
辿り着いた先は荘厳な山々に囲まれし限界集落「御仏村」。
若者達は豊かな自然に安息を求めるも、些細なことから”村八分”の制裁を食らい、のどかな田舎暮らしは突如地獄の様相を呈す!

 妬み僻み嫉みがこじれにこじれ、暴言暴力暴論の連鎖が血を濃くする!
常識無ェ 秩序も無ェ あるのは暗黙の掟のみ!
「オラこんな村嫌だ!」叫び声はトラクターの轟音にかき消される!

 ここは日本の縮図か、はたまた相似形の異世界か。
神をも恐れぬ劇団不労社の新作は地方創生ムラ社会エンターテインメント!
(を、やっちまった劇団が、、、)


【日時】
2019年
1月12日(土)  15:00/19:00
1月13日(日)   11:00/15:00/19:00
1月14日(月•祝)11:00
*開場・受付開始は開演時間の30分前より。

【会場】
浄土宗應典院 本堂
〒543-0076 大阪府大阪市天王寺区下寺町1-1-27

【料金】
(全席自由席・当日精算のみ)
前売 2,300円/当日 2,500円

《各種割引》(全て前売のみ取扱い・併用不可)
不労者割   999円(大学生以下・要証明)
超不労者割  99円(高校生以下・要証明)
ペア割  4,000円(1人あたり2,000円)
村八割  1,800円(名前に「村」がつく方対象/要証明)
應典院寺町倶楽部会員価格 前売 1,800円/当日 2,000円

【出演】

宮前旅宇
村田千晶
西田悠哉
(以上、劇団不労社)

石川信子
犬月茶髪
下野佑樹
雀野ちゅん(うんなま)
田邉光洋
永渕大河(演劇集団ゲロリスト)
松田義顕(劇団公演中止)
森岡拓磨(劇団冷凍うさぎ)

【スタッフ】

作・演出/西田悠哉
舞台監督/猪岡瑛斗(劇団不労社)
舞台美術/藤田陸(劇団火炎瓶)
大道具/永瀬あきら
中道具/多田剛志(劇団公演中止)
小道具/松尾かえる
音響/上山智章
照明/木村圭佑(稽古後ティータイム)、あかだ
映像/サンカー・ニヴェダ
PV制作/大城敦司(大阪大学映画研究部)
衣装/石野里奈、清水春香
メイク/松田義顕
宣伝美術/永渕大河
制作協力/藤原政彦(うんなま)
企画・制作/劇団不労社

【予約】
https://ticket.corich.jp/apply/95510/

【問い合わせ】

公式HP:http://www.furosya.com
公式Twitter:@GekidanFurosya
E-mail:furosya.n@gmail.com
TEL:090-4328-5694(代表・ニシダ)

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西田悠哉
(劇作家・演出家・俳優)