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2018/1/12-14 室屋和美:彗星マジック19景「花の栞」レビュー

應典院寺町倶楽部との協働により、モニターレビュアー制度を導入しています。1月12日(金)から14日(日)に應典院本堂にておこなわれた、彗星マジック「花の栞」。一冊の本に纏わる、空想の虚と実の物語が繰り広げられました。今回は劇作家・役者・WEBライターの室屋和美さんにレビューを執筆していただきました。


彗星マジックの本公演「花の栞」を観ました。上演時間は120分。
チラシ掲載のあらすじ(のようなもの)はこちら。

一冊の本に纏わる話です。その本は遠い昔に書かれた本で消えた文明の賜物で、だから誰も読むことはできませんでした。その文字は踊っているようで、礼儀正しくも見えて、
女は夢中になりました。本には瑞々しく芳しくお喋りな、花の栞が挟まっていました。
彗星マジックがおくる、空想の虚と実の物語。 

彗星マジックは公演の冠に「第○回」ではなく「景」を使うのがいいですね。
しっくりきます。無国籍ファンタジーをベースに物語を創っている劇団です。

お芝居を観ていると何処か知らない国の風景が脳裏に浮かんできます。
さしずめ作・演出の勝山さんは旅先案内人という所でしょうか。
なんとなく現地の日焼けした少年っぽいような。「イイもの見せてあげる!」って
手を引かれているカンジがします。

***

「花の栞」は〈現実世界〉と〈小説内の世界〉の2つの世界軸が交錯する物語。
現実パートでは原因不明の不治の病「睡眠病」にかかり眠り続ける少女・花と、
ともに小説家である彼女の両親の姿が描かれている。

小説パート(花の母が執筆した物語)では睡眠病に侵食されゆく世界と、
そのなかで儚くもたくましく生きていく住民たちが鮮やかに描かれる。
このフィクションの世界では〈御門(みかど)〉という権力の頂点・国家の象徴が
存在しており、強烈な権威主義体制が敷かれている。ちょっと怖い推測だけど
ヒトラーの独裁政権を想像してもらえるとわかりやすいと思う。
(戦時中のニッポンを彷彿とさせる表現もある)

戦争と植民地支配、排他的思想が人々を脅かすなか、ある日海辺に異国の少女と
一冊の本が漂着する。少女は誰も理解することのできない言語を話し、
本の方はというと薬学書で、こちらも読めない文字で書かれてある。

実はこの本が睡眠病を治すための治療法、そして国家の威信を揺るがす大きな
秘密が隠された文献だった。登場人物となる漢方医、言語数学者と助手、蒐集家
(収集家/睡眠病調査団に属する両親の子)は人生を賭けてこの文献の解読に挑む。
本と謎解きは海を越え、世代を超え、研究者たちの手に渡り、受け継がれてゆく。

***

本には花の模様の栞が挟まれていて、現実世界で「花」役を演じる米山さんが
小説世界では擬人化した「栞」役として各世代の研究者と寄り添い生きていた。
「栞」は物語の中でストーリーテラー的な役割を果たしており全編にわたり登場。
徐々に現実世界の「花」ともリンクする。物語のキーパーソン的な存在だ。

これらのバトンの受け渡しがちょうど小説の「第○章」というような展開の仕方で、
観客はまさに小説の頁をめくるような気持ちにさせられる。
巨大な謎に挑む研究者たち、本を取り巻く人間模様は非常にドラマチックで
ミステリアス。芝居の終盤までこの謎解きは加速、波乱を含んで魅力的に展開する。

ちょっと世界観がデカすぎてあらすじがちゃんと説明できてるか不安ですが。
彗星マジックさんはとにかく物語の作りこみ方がハンパなく重層的・立体的なので
見るたび驚きます。かなりファンタジー色が強いのでしっかりした「演劇」が
見たい方にオススメの劇団です。

私は〈死について〉とか〈宇宙の果て〉とか〈海のはしっこ〉とか、
そういうことをじっと考えると気が狂いそうになるんですが、勝山さんは
ワクワクする類の人なのかな。
芝居の中に登場人物がいて、登場人物は本を読んでて、その本の中にまた人がいて。
その本の人々は現実とリンクし、それだけならまだしも、突然舞台照明が無色の
生っぽい明かりになり(演出の狙いかな)、いま客席に座っている「自分」を思い出し。
何度も思考の渦に溺れました。この振り回され加減や推理が楽しいんですが、
なかには置いてきぼりの気分になって辛い方もいるかもしれません。

劇中に「言葉を残すために私たちは生きてきたんです」というような表現があり、
今わたしの胸に響くものがありました。
星に名前があり、物語がある。草にも、雲にも、名前が付けられている。
漢字やひらがな一文字にも由来があり、歴史があり。歌もそう。人の名前も。
すべてに言葉、人を介したドラマがある。

そんな当たり前のことを、そういや忘れてたなと気づきまして。
そう思うと平凡なモノなんてこの世に無いのかなと。
私自身が世界の一部でなんらかのパズルのピースで。
ひとり寂しくこっそり死んでも、やはりそれは次の世代になんらかの
礎(いしずえ)となっている。そして私は、芝居をしていて、物語を書いている。
なんだかすごく、宇宙と密接に関わり合う人生なのだな、そう思えて
「生きる」ということの意義と豊かさに驚き、ため息が出たんです。
謎と発見のある芝居。まさにミステリージャーニー。
これを應典院でやってるのがまたなんだか意義深い感じがしました。
輪廻転生とか、そういうことにも思いを馳せたりしちゃって。

終盤、小説家の父の「書けない」というセリフがどうしても現実の勝山さんを
思い起こしてしまいやや集中が削がれましたが、まぁちっぽけなことでしょう。
素敵な芝居でした。学者役の野倉さんが特にいい味を出してらっしゃいました。

 

○レビュアープロフィール
室屋和美(むろやかずみ)

劇作家・役者・WEBライター。1984年兵庫県神戸市生まれ。
近畿大学演劇芸能専攻・劇作理論コース中退。
2012年から『劇作ユニット野菜派』を立ち上げ。
以前は「劇団八時半」「コトリ会議」などに所属。
劇作家の活動として、戯曲「どこか行く舟」がAAF戯曲賞佳作を受賞。
世間のさえない領域で静かに呼吸している小魚のような、ひそやかな人々と
その切実さを好んで描く。

◇近年はご依頼をいただいて劇作をしたり、大喜利や官能小説のイベントに
出演したり、WEB媒体に記事を書いたりしています。
趣味はマンガを読むこと、お笑いの舞台を見ること。
小さな畑の世話もしています。いつでもなんでも、気軽にお声かけください。

Twitter: @ooiri_muroya 

◇ご挨拶とご案内

先日、30分芝居のトーナメントバトル「30GP」というものに参加しました(1/18~21)。
「そこはかとなく優しくフィット」という自身の作品で参加したのですが、ありがたくも
優勝してしまいました。ご来場いただきましたお客さま、関係者さま、まことに
ありがとうございました。
ここで、イベントを見逃した!という方に2つご案内です。

(1)2月頭くらいから動画配信サービス「観劇三昧」にて30GP第1ラウンドの
全8作品が1年間限定配信されます(有料)。スマホ・PCでお気軽に作品をお楽しみ
いただけます。面白い団体がたくさんです。ぜひご覧になってください。

詳細: http://ka-geki.jugem.jp/?eid=263
観劇三昧HP: https://kan-geki.com/

(2)演劇グッズ専門店「観劇三昧」にて、「そこはかとなく優しくフィット」を
含む戯曲5種を販売しております。WEB通販もあります。ぜひお買い求めください。

商品紹介ページ: http://kan-geki.com/store/products/list.php?category_id=546

 

 

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室屋和美
(劇作家・役者・WEBライター)