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2018/6/29-7/1 泉寛介:「應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2018 劇的集団まわりみち’39『誕生へのロードワーク』」を開催いたしました。

應典院寺町倶楽部主催の演劇祭、應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2018(通称SDN)が、6/29の劇的集団まわりみち’39『誕生へのロードワーク』で幕を開けました。本年度から全面リニューアルした應典院舞台芸術祭は、これまでの短期集中型から年間開催に移行し『じっくりと向き合う』演劇祭に。「いのちに気づく演劇プログラム」とテーマ設定した1年間に渡る應典院舞台芸術祭の1作目は、『問題意識、全部のせ』(作・演出の斜あゐり談)な作品でした。

應典院寺町倶楽部執行部役員の泉寛介による開催報告を掲載します。



相手の立場や状況を思いやる力、そんな想像力が望まれる作品だったように思う。

僕はアフタートークの司会を昼、夜と2公演分行ったため、本作品を2度見た。作品は、近未来SFのような設定の中、様々な人間模様がスケッチ風に描かれる。少子化対策として敷かれた親ひとり子ひとり政策。この政策を積極的に行っている統制された管理社会のUT、そして同国ながらその政策には賛成せず自治区にて伝統的慣習に従い生活する、多様性に寛容なVT、2つのコミュニティがこの劇世界では対立しつつ共存している。かつてUTからVTに対する壮絶な排他運動があり、UTのVTヘイトは日常的に行われているようだ。そういった社会状況を背景に、哀しい事件が起こるまでを描く。

UTの管理会社に勤める男は官僚の上司から受けたパワハラ(セクハラ)故に職場を辞職する。けれども最終的にその上司に連れ戻され、言い争いから殺害されてしまう。

この事件を大きな幹とし、並行して、彼が出会うポリアモリーVT家族の被差別状況、VTの身分を晒さずUTとして生き、親子関係を作る母娘の共依存のような関係と虐待、彼と親子関係になる要人の息子である青年のアイデンティティの探求、その青年の管理を行う元同僚の会社への不信と自責の悩み、殺害したにも関わらず被害者の思いを本質的に理解できない上司など、枝葉と呼ぶには太い枝たちが幾重にも幹に寄り添うよう描かれる。

ここには、UTとVT間にある差別意識、デザイナーベイビー、異文化・異世代のコミュニケーション不全、ブラック企業の成果主義・隠ぺい主義、上司と部下のパワハラやセクハラ、優先的地位の濫用のような企業間のパワハラ、母娘間における共依存、虐待、発達障害。セクシュアリティの不寛容、売春、格差社会・管理社会への警鐘等々、作者の多様で膨大な問題意識、人間の尊厳(人権)が損なわれる状況への危機感が、それぞれスケッチされ、それらをピースとした1つの立体物が真綿で首を絞められるように紡がれた、そんな印象の作品だった。

登場人物たちは思いやりのできなさ・すれ違い・問題の抱え込みによって哀しみや苦しみを生んでいる。そんな現代の普遍的な苦しみや小さな希望を静かに表していた。

また、観客である僕たちは同時に、そのやりとりの彼、彼女が何に苦しんでいるのか、構造や情報を補いながら見るという体感だった。

最初はピンと来なかったシーンがいくつかあった。もちろん大枠はつかめるのだけれど、彼らが何に本質的に悩んでいるのかつかみきれない部分もあった。それは僕の知識や問題意識の不足も大きくあるのだけれど、表現として、それを想起させるセリフや、状況が大きくは誇張されていない演出も起因しているのではないかと思った。

内面を重視した演技質であったので、SF設定にも関わらず、当事者の空気感にリアリティが生まれていたように思う。ただ、それもあいまって苦悩のトリガーを見逃していたところもあったように思う。

二度目に見たときは劇世界全体の背後にある大きな黒いうねりのようなものがつかめた気がした。単純に二度見たから、話の内容が分かっていたというのはあった。けれどそれ以上に見方が違った。このシーンではこの問題でこの人物がある状況で悩んでいる、それにはこの社会のある問題が起因している、というようなことをシーン最初から頭の中で補完しながら見る、いわば自分なりの文脈が整理されていた見方だった。

例えば、冒頭の「何が問題か」を複数の人物がユラリユラリと発話するシーン、二度目はパワハラや、社会の圧力に苦しむ被害者の心象を描いているように見えた。一回目はなんとなく主人公であろう人の不安な気持ちのフック(後半に関わってくるシーン)シーンくらいの認識でしかなかったように思う。

その認識感覚で二周目の観劇をすると、上記の問題意識がパズルのようにつながっていくように感じられた。要約すると、とても単純になってしまうのだが、刺されてしまう彼の悩みも、同僚の彼女の悩みも、上司も、はたまたVTたちも、ほぼすべての人がこの行き過ぎた資本主義(社会主義?)による社会体制が起因して、人権をはく奪されているという風に読み取れた。

パワハラはなぜ起こるのか、差別発言はなぜ生まれるのか、不安感や愛情依存はどのように出てくるのか、その原因がすべてこの親ひとり子ひとり政策を行うような社会に集約されているように感じた。冒頭シーンなぞ、まさにだ。作品の最後に本来糾弾されやすい悪役としての上司が悪役然としていないところ、病識のない患者のような描かれ方をしているところに妙な違和感があったが、真の悪役が社会構造であるという帰結があればそれも腑に落ちる。

物語を見ながら、そう考えたところで、今度はこのような社会・社会制度でなければ、少子化の時代に安定的な税収をどこから確保するのか、また果たしてVT的な生活こそが問題をスムーズにできるのだろうか、ルサンチマンではないだろうか、という反論も考えながら劇を見ている自分がいた。

これこそ斜さんの思うつぼであったのではないだろうか。

こういった意識を立ち上がらせる表現。演劇によって、僕は社会問題への基礎体力・想像力の稽古をしているようだった。この作品を通じてそう仮想の世界を振り返ることが、まさに僕の中の、(現実世界への批判的意識の)誕生へのロードワークであると思わざるを得ないのだ。

90cmほど上がった奥舞台と床面が舞台。双方の舞台はセンターにある2つの階段で繋がれている。舞台奥中央の幕には六角の蜂の巣を模した白い美術を配置して、両端とあがった舞台の側面には均等の取れていない蜘蛛の巣のような赤い美術が多数配置されている。白と赤、秩序と混乱、無機質と血、関係性を予測させる。

また舞台上には200cm×90cmほどの白い枠組が数基、また白い椅子とテーブルが数台、ひとつ赤い椅子がある。白い枠にはこだわりがあったと斜さんはアフタートークで語っていた。思えば劇中、壁、枠、を持ってきたり、「越える」という動作が多かった。境界はある、けれどそれを越えて、コミュニケートする・理解する、ロードワークの正解はすぐには見つからないが、僕たちにできるトライアンドエラーは確かなものだと肌で感じた。

 

泉 寛介 脚本家・演出家

1980年生まれ。大阪拠点の劇団baghdad caféで脚本・演出を担当。space×drama2009優秀劇団選出、AI・HALL次世代応援企画break a leg第1回選出、第3回近松賞優秀賞受賞。近年は大阪現代舞台芸術協会理事、應典院寺町倶楽部執行部役員、應典院舞台芸術祭Space×Drama×Next2018制作委員長、平成31年度次世代応援企画break a leg選考委員として企画・運営などにも関与。サラリーマン演劇人。

[主な直近の活動]

■脚本・演出・上映
SP水曜劇場にて脚本・演出作品
baghdad café『会いたくて会えなさすぎるなたたちへ』を上映。

日程 7月18日(水)20:00〜(再放送2018年7月19日(木)~7月25日(水) 平日・土曜23:00~、日曜13:00~)
会場 ビアバル・あるか→アるか地下「金毘羅」
配信URL http://kan-geki.com/sp-theatre/
HP http://sp-theatre.hatenablog.com/

■脚本・演出・上映
門真国際映画祭、舞台映像部門にて脚本・演出作品baghdad café『生活のリズム』がノミネート、上映。

日程 7月28日(土)16時50分
会場 門真市立公民館スクリーン3
HP http://www.kadoma-filmfes.com/pages/2050439/page_201806300008

■演出

道頓堀セレブ vol.2『トップガールズ』
作 キャリル・チャーチル
演出 泉 寛介(baghdad café)

日程・会場
<大阪>浄土宗應典院本堂
9月14日(金)19:30
9月15日(土)11:00/19:00
9月16日(日)11:00/16:00
9月17日(月・祝)11:00

<東京>コフレリオ 新宿シアター
9月28日(金)19:00
9月29日(土)13:00/18:00
9月30日(日)13:00

HP https://doutonboriserebu.info/

■演出
baghdad café the 18th perforamance

平成30年度現代演劇レトロスペクティヴ 『野獣降臨』
作 野田秀樹
演出 泉寛介
日程 2018年12月22日(土)~24日(月・祝)
会場 伊丹AI・HALL
HP http://www.aihall.com/h30_retro/

人物(五十音順)

泉 寛介
(脚本家・演出家 / 大阪現代舞台芸術協会理事)